Column
2008.6.30 |
医薬品新産業ビジョンと緊急提言は納入価格に影響しているか |
ホスピタルソリューションG シニアエキスパート 三谷 美和 |
今年度の医薬品納入価格は大いに荒れるであろうと予想されていたが、大方の予想通り荒れている。そこで改めて2007年8月30日に発表された医薬品新産業ビジョンとその約1ヵ月後の9月28日に発表された流通改善懇談会による緊急提言を流通分野に限定して整理してみた。
1.医薬品新産業ビジョン
これは、医薬品全般にかかる今後のあり方を示したものだが、この中で卸を中心とした医薬品流通に関して言及している部分をフォーカスすると、
1)安定供給:流通高度化と効率化による22万箇所への配送と医薬品備蓄体制
2)IT化推進:流通コード標準化と個装単位へのバーコードによるトレーサビリティの管理
3)情報機能の評価:MSの質向上による各種情報(添付文書、市販後調査情報)の収集・提供
4)主体性の確立:未妥結・仮納入の防止と総価値引きの防止
などを提言している。
注目すべきは、将来像として医薬品卸の統合化促進を前提とした流通機構再編を「業種・業態変化」を念頭においた業界変革が肝要と位置づけていることである。
2.流通改善懇談会緊急提言
前項の新医薬品産業ビジョンの提示を受けて2007年9月28日には、流通改善懇談会より緊急提言がなされた。これは、メーカと卸業者との取引及び卸業者と顧客(医療機関・調剤薬局)の2点について言及している。
1)メーカと卸との取引について
ここでは、一時差益マイナスとメーカよりのリベート・アローワンスの拡大傾向を抑制するため、
a.取引の透明性確保
b.仕切価の速やかな提示
c.適正な仕切価の設定
d.リベート・アローワンスの整理・縮小と基準の明確化
などを要請している。
2)卸と医療機関/薬局との取引について
ここでは、長期にわたる未妥結・仮納入の改善と総価契約の改善を要請。
a.経済合理性のある価格交渉
b.医薬品の価値と価格を反映した取引(銘柄別で行う)
c.長期とは6ヶ月を超える場合を指す。そのため多様な取引方法の検討
3)多様な取引方法の検討
先に示した卸と医療機関/薬局との納入価妥結が早期に解決しない場合の方法として示されたのが以 下の方法である。
a.品目の絞込み
病院で品目の絞込みを行い、多品種少量状態を解決し卸の負担を軽減させる
b.共同購入
複数の病院間で品目の統合などによる数量規模の拡大で価格交渉余地を大きくする
c.メーカとの直接交渉
3項の中で、a.b.は卸との交渉での手法であるが、c.については独禁法の問題もあるためひとり医療 機関とメーカのことにはとどまらない。次に「メーカとの直接交渉」とその狙いについて述べたい。
3.メーカとの直接交渉とは
この意図は、納入価の最終決定権が実際上卸ではなくメーカにあることを認めた上での提言と思われる。
これは、病院・調剤薬局がメーカとの直接価格交渉により早期妥結を目指せというものであるが、従来の卸が介在する取引でメーカとの直接交渉が可能になるのは、卸が委託販売(メーカと契約)の場合のみであることに注意する必要がある。
新医薬品産業ビジョンでの、業種業態の変革をも視野に置いた改革ということは、従来(現在)の卸としての機能を捨てて物流業者として存続することを示唆している。
しかしながら既存卸は、MR業務委託(CSO: Contract Sales Organizationの略でMR業務の委託契約を言う)をメーカとの間で締結出来なければ、他の物流事業者に取って代わられる可能性も高いといえる。
このような提言を受け、既に準備を始めている医薬品卸も存在する。その準備とは、
1)物流システムの再整備
物流センター(クロスドックセンターなど含む)の整備とステイタス管理などのシステムと配送体制の構築 と強化
2)SPDシステムへの取り組み
従来は、単に顧客囲い込みの手段として院内での物流作業を主体に考えていたのを、
@)使用データの集計・分析による各種企画提案
A)有資格者(薬剤師)などの投入による管理精度向上
B)使用機会が少なく高価な注射薬のバラ販売対応によるロス削減
など、物流業者としての側面とパートナーとしての側面で医療機関と共存していく方向に切り替えてきてい る。
納入価格決定過程で、想定以上に荒れるということは従来のメーカ交渉を軸とした卸間の均衡が壊れてきているのが大きな要因であろうが、こういったことも、大いに影響していると考えられる。