Column
2010.5.10 |
病院情報システム調達におけるプロポーザル方式とその有効性 |
ホスピタルソリューションG エキスパート 西村 文貴 |
1.病院情報システムの調達におけるプロポーザル方式の採用動向
近年、自治体病院における病院情報システムの調達において、プロポーザル方式による調達を実施する事例が多くなってきている。
プロポーザル方式は、建築設計業務や、建設コンサルタント業務の調達において活用が開始されたが、システムの調達においてもその有用性が認められ、採用が増加している。
自治体病院や公立大学病院ではプロポーザル方式の採用が増加している一方で、政府調達に関する規定が適用される国立大学付属病院では、総合評価方式一般競争入札で調達を行う事が求められている為、プロポーザル方式の採用が進んでいないのが現状である。
独立行政法人国立病院機構のシステム調達では、総合評価方式一般競争入札での調達となっているが、提案書による企画提案を求め、その評価結果を「評価点」として総合評価の得点に反映させている。
このように、今後政府関連機関でもプロポーザル方式(あるいはそれに近い方式)でのシステム調達が本格化するものと考えられる。
2.プロポーザル方式の有効性
プロポーザル方式は一般競争入札と比較して、以下のようなメリットが有る。
1)システムエンジニアなど、システム構築を担当する技術者の評価が可能となる
2)発注者側が想定する以上の提案が為される可能性が有る
近年、病院情報システムはパッケージソフトウェアをベースに構築する事が主流となっており、また、高機能化が進んだ結果、システムの有する機能について、各社のパッケージ間で大きな差異が見られなくなっている。大学病院のような大規模病院においても、カスタマイズをほとんど行わない事例も出てきている。
システムの機能について大きな差異が無くなっている結果、システム導入の成否、システム導入の効果を左右する大きな要因は、
「どのシステム(パッケージソフト)を導入したか」ではなく、
「どのような技術者が導入を担当したか」となっている。
同じ会社の同じパッケージソフトウェアを利用していても、病院によってその評価が正反対である場合も少なくない。その要因は、「技術者の質」に他ならない。
技術者の質は様々な要因によって定義されるが、特に病院情報システムの導入技術者において重要なのは、顧客の問題を解決できる力である。
顧客の問題を解決できる力を持ったSEが構築を担当するかどうかで、同じパッケージソフトウェアを利用していても、システムの有効性や利用者の満足度は大きく変わってくる。
技術者のソリューション力を評価するには、課題に対して提案を行わせるプロポーザル方式が最適である。
また、プレゼンテーションによる評価を行う際に、プレゼンテーションを営業担当者ではなく構築の中心となるSE(総括責任者、実施責任者など)に行わせて、コミュニケーション能力を評価するという事も有用である。
プロポーザル方式のメリットとして第二に挙げた、「発注者側が想定する以上の提案が為される可能性が有る」という点について、まず、一般競争入札では、要求仕様に記載した以上の機能を、システム開発会社があえて提案してくる事は非常に希である。
一方でプロポーザル方式の場合、提案課題を解決する為に必要であれば、要求仕様に記載していない機能を、応募者が自発的に提案に含める可能性がある。
ある病院で行ったプロポーザル調達では、「地域医療に資するシステム」という課題に対して、要求仕様書に記載していない生命保険文書作成支援システムを含めて提案を行った応募者が存在した。別の応募者は地域連携パスの作成支援機能等、地域連携室の支援機能を中心に提案を行った。
このようにプロポーザル方式では応募者が知恵を絞り、最適と考える提案が為される。その提案は、病院側が想像する以上の革新的な提案である可能性も有る。これがプロポーザル方式の本質的なメリットである。
3.プロポーザル方式を採用するにあたっての留意点
これまで述べたように、プロポーザル方式による病院情報システムのには大きなメリットが存在する。ただし、プロポーザル方式のメリットを最大限に活用するには、まず、何を提案課題にするか、提案課題の検討を十分時間を掛けて行う必要がある。また、審査委員の評価点が大きくばらつかないように、審査におけるポイントをできるだけ具体的、定量的に設定しておく必要がある。
また、審査委員も提案課題の良し悪しを評価できる能力を有した人材を任命する事も重要であり、メリットが大きい一方で、調達業務における発注者側の負担も大きくなる事は留意しなければならない。